手掌・足心の発汗過多
【症例101】 41歳、 男性
顔色青白く、やややせ型
症例キーワード: 発汗過多
主訴
手掌・足心の発汗過多。
手掌から汗液がしたたり落ちることもあり、靴下はぐっしょりと濡れる。このとき腋下・体幹部も手掌・足心ほどではないが発汗あり。更に動悸・不安を伴い、手指は非常に冷える。10代のころからの症状で、20数年来続いている。発汗は常時あるわけでなく発作性に起こり、そのきっかけは精神刺激に反応することが多い。また冬季に好発の傾向。病院にて柴胡加竜骨牡蠣湯を2年間服用したが無効であった。
全身症状
寒熱 | 平素の手足の冷え・ほてりいずれもなし。冷えのぼせもなし |
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二便 | 大便:1日1回。下利しやすい。 小便:1日6~7回。 |
飲食 | 食欲:平。 飲水:平。 |
全身 | 疲れやすい |
胸腹 | 胃脘痛なし |
浮腫 | なし |
睡眠 | 不眠傾向 |
心神 | 神経質 |
汗 | 上記 |
頭 | 頭痛・めまいを起こしやすい |
面 | 面色青白 |
舌 | 舌質暗、舌苔白 |
体型 | やややせ型 |
四肢 | 両腕がしびれやすい |
経過・結果
【第1診】 本案のような慢性をたどる疾患は「主症状の把握」と同時に「基本体質の把握」とが必要である。基礎体質の特徴として「顔色青白く、やややせ形」、「下利しやすい」「疲れやすい」「不眠傾向」「神経質」「頭痛・めまい・腕の痛み」など。これに加えて主症状である「発作性多汗」とを合わせて考えると、この患者は典型的「桂枝体質」と思われる。桂枝類方中、「発汗に伴う動悸不安」「不眠傾向」「神経質」などの神経症状と「下利しやすい」などから桂枝類方中、桂枝湯に鎮静・固渋の竜骨・牡蠣を加えた桂枝加竜骨牡蠣湯を選択。更に発症から20数年経過していることから汗腺の機能異常(汗腺の血瘀?)を考慮し桂枝茯苓丸を併用する。 処方1)桂枝加竜骨牡蠣湯7.5/7.5g+桂枝茯苓丸2.0/6.0g 分2×14日分 【第2診】 服用後2~3日後電話あり。処方1)服薬後下利するという。服用を続ければじきに落ち着くので服薬を続けるよう伝える。 14日後来局。下利はその後落ち着いて今は起こっていない。発汗は少しおちいついた感じ。発汗後の何とも言えない不安・焦燥感が起こらないので助かっている。体感としては70%(残)くらい。 処方1) do. ×14日分 【第3診】 発汗の程度は変わらないが、発汗の頻度が明らかに減っている。 処方1) do. ×14日分 【第4診】 良かったり悪かったり。ただし悪い時でも服用開始前ほどは悪くならずに済んでいる。言い忘れたことであるが、漢方を飲み始めてから夜よく眠れるようになっている。目覚めが気持ちよい。 処方1) do. ×14日分 【第5診~】 体感として発汗の程度・頻度含めて50%(残)くらい。最終的には年余にわたる服用が必要と説明し継続服用を勧める。 処方1) do. |
考察
本案のポイントは以下の四つ。
① 慢性疾患においてはその症状だけをいじるのではなく、体質からも考える必要があるという発想があるか。
② 桂枝体質が看破できるか。桂枝加竜骨牡蠣湯が選択できるか。
③ 慢性疾患における血瘀に思いをいたすことが出来るか
④ 長期服用が必要になることを予見できるか。
汗腺の血瘀について
外分泌腺は腺房・導管といった共通の構造を持っている。これら外分泌腺の中でも「汗腺」、「耳下腺」、「顎下腺」、「涙腺」、「鼻腺」、「糸球体」は類似の構造・機能を持っていることが知られている。
慢性腎炎などによる糸球体の機能低下の改善に用いる薬物に黄耆、丹参、桃仁があげられる。
以下私論
このことは「汗腺」、「耳下腺」、「顎下腺」、「涙腺」、「鼻腺」の機能回復にもこれら薬物が有効なのではないかと考えている。本案においては汗腺の機能回復(血流改善による再吸収機能の回復)に桃仁を用いることにし、状況から桂枝茯苓丸を選択した。結果、それが奏功した要因の一つと思われる。