ショック症状
【症例17】 66歳、 男性
身長170cm、体重62kg、痩せ型。
症例キーワード: ショック症状
主訴
経口糖尿病薬(アマリール、ベイスン)服用の過程でおこる低血糖によるショック症状の予防。
経口糖尿病薬はもう五年以上服用を続けている。過去にそのショック症状で2回ほど救急車で病院搬送されている。そのショック症状の内容は次のとおりである。「どういう体調の加減かはわからないが、突然夜中に起る。まず、水様性の激しい下利から始まる。この時腹痛はほとんどない。これに続いて全身からの発汗と手足の強い冷え・震え、そして激しい全身倦怠。この全身倦怠が続くと意識が朦朧としてくる。急ぎ砂糖水を服用しても回復しない。この段階で救急車を呼び搬送となった。」
全身症状
寒熱 | 手足は冷えるが足心はほてる。 |
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二便 | 大便1日1行、普通便。 小便1日10~13行(夜間3行)。 |
飲食 | 糖尿病用の食事で質・量をコントロールしている。 |
四肢 | 両下肢に糖尿病由来の痺れあり。 |
経過・結果
第1診水様性の下利、脱汗、四肢厥冷、脱力といったショック症状はまさに厥陰病症状と考えられる。そこで処方1)四逆湯を3剤投与。 四逆湯 |
第2診投薬して数ヶ月たったある日、その奥さんから連絡があった。「昨夜、例のショックが起った。前回同様水様性の下利で始まった。そこで急ぎ四逆湯を煎じて(慌てていたので20分くらい煎じただけだったという)、本人がトイレから出てくるとすぐ1/2量を服用させた。いつもなら、この後激しい全身性の発汗が起こるのであるが、今回はそれが起きなかった。ここで砂糖水を服用させた。この後、背中が温まって気持ちよいといい、そのまま寝てしまい、結局事なきを得た。」とのこと。 |
考察
四逆湯の効き目の鋭さと速さに感嘆させられた症例である。四逆湯はもともと傷寒という急性外感病の末期に用いられる処方のひとつであるが、その後多くの漢方家の研究により、外感病以外にも、例えば今回のごときショック症状にも応用の道が開かれてきた。今回の症状は『傷寒論』の「大汗、若大下利、而厥冷者、四逆湯主之(大いに汗し、若しくは大いに下利して、厥冷する者は、四逆湯之を主る)」に相当するものと思われる。太陽病を大いに発汗させ、また陽明病を大いに下した結果手足が厥冷するようになったものには四逆湯を用いる、という意味であるが、実際には発汗操作・瀉下操作のいかんを問わず、様々な原因のため発汗過多・瀉下過多となり、これによって起った厥冷に用いている。