橋本病に伴う体調不良
【症例108】 52歳、 女性
身長162cm、体重48㎏。やせ形。子供2人。
症例キーワード: 橋本病
主訴
橋本病に伴う体調不良。
病院にてチラージン50mg服用中(TSH・T3・T4いずれも基準値内)。
とにかく体がだるく、重い。微熱も出やすい。また、頭痛・肩こり・めまいもある。このため鎮痛剤をほぼ毎日服用している。
<病歴>
盲腸手術
子宮内膜症
五十肩
<併用薬>
ロキソニン(頭痛・肩こり時)
プラセンタ注射(疲れ・美容対策?)
ソラナックス(精神不安時)
全身症状
寒熱 | 下肢冷(++)、冷えのぼせ(+) |
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二便 | 大便:4日/行 小便:6~7/日、量平。膀胱炎歴あり。 |
飲食 | 食欲:少ない。 飲水:平。 |
全身 | 倦怠無力(++)、容易感冒(咽痛)。 |
浮腫 | なし |
睡眠 | 不眠傾向 |
心神 | ウツウツ・不安傾向。 |
汗 | 平 |
口 | 扁桃腺腫れやすい。喉中硬阻(+) |
頭 | 頭痛(+)、頭暈(+)。 |
月経 | 閉経して1年になる。有経時は子宮内膜症があり経痛も強かった。 |
舌 | 舌質赤紫、舌苔白。 |
皮膚 | 皮膚は萎黄を帯びる白色 |
経過・結果
<経過と結果> 【第1診】 橋本病は自己免疫疾患であり、漢方的には血瘀と考えている。橋本病は慢性の経過をたどり、臨床像は虚寒を現すことから、治療処方の第一選択肢は芎帰調血飲第一加減とし、実際には更にこれに地竜を加えて基本処方としている。この地竜の加味は免疫抑制作用を期待したもので、自家経験則であるが、芎帰調血飲第一加減単独で用いた場合よりも成績が良い。また本案においては便秘・頭痛・肩こりといった血瘀上衝も併発しているので桃核承気湯を併用する。 処方1)芎帰調血飲第一加減(エキス散)3.0/7.5g+地竜(エキス散)1.0g 分2×14日分 処方2)桃核承気湯(エキス散)2.0/6.0g 分2×14日分 【第2診】 だるさ(↓↓)、微熱(−)、頭痛・肩こり(−)⇒ロキソニン一回も使用せず。便通もう少しよくしてほしい。また、毎年夏になると夏バテがひどく、動けなくなるくらいなのでこれも予防できないかとの要望(6/5)。 処方3)芎帰調血飲第一加減(エキス散)2.5/7.5g+地竜(エキス散)1.0g+清暑益気湯(エキス散)2.5/7.5g 分2×14日分 処方4)桃核承気湯(エキス散)2.0/6.0g+大黄牡丹皮湯(エキス散)1.0/6.0g 分2×14日分 【第3診~】 処方3)4)でよく眠れるようになった。便通もちょうどよいくらい。食事もおいしい。 その後、処方3)中の清暑益気湯を状況に応じて補中益気湯や帰脾湯に適宜変更しつつ良好を維持。 免疫病は年単位の服用が必要であることを説明し、継続服用を続ける予定。 |
考察
免疫病は難しい。すべての免疫病が血瘀というわけではない。但し、こと橋本病についてはその成因・症状などから血瘀と考えられている。更に、駆瘀血剤も多種あるがその中でも芎帰調血飲第一加減がもっとも成績が良い。これに地竜を加えるとまさに鬼に金棒である。
チラージンは橋本病の結果として起こった甲状腺ホルモンの低下を補充するものであり、根本原因に迫るものではない。ここにチラージンの橋本病治療の限界があり、漢方薬を併用する価値があると思う。