咳喘息
【症例116】 49歳、 女性
身長157cm、体重64㎏、やや肥満気味
症例キーワード: 咳・喘息
主訴
咳喘息。1年ほど前から。発作は咳嗽から始まり次第に喘息に発展する。咳嗽時は痰(白粘~黄粘)と全身性の粘性発汗を伴う。冷風を受けると発作好発。また、しばしば咽痛を起こし、これも咳喘息を起こすきっかけになる(扁桃肥大があり、発熱しやすく膿栓多数付着している⇒銀翹散で発熱・痛みがとれる)。起床時・温度差でくしゃみ・清涕あり(通年)。発作頻度は2~3回/月、冬>夏。ステロイド吸入剤でしのいでいる。
全身症状
寒熱 | 寒がり。冷え性(−)。冷えのぼせ(−) |
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二便 | 大便:1日1行、良好 小便:1日6~7行 |
飲食 | 食欲:良好 飲水:2ℓ/日、喜冷飲の傾向 |
全身 | 疲労倦怠(−)、咽喉から風邪をひきやすい(小さい時から) |
浮腫 | なし |
睡眠 | 良好 |
心神 | 良好 |
汗 | 上半身にかきやすい。 |
頭 | 頭痛(−) |
胃腸 | 胃脘痛(−)、食べ過ぎるとすぐ腹満。 |
月経 | 周期(30日)、経期(2~3日)、経痛(−)、経血量少。器質的病変なし。 |
舌 | 舌質胖大・紅、舌苔微白。 |
皮膚 | 左耳の前に瘻孔あり、常にはれぼったく少量の排膿あり。 |
経過・結果
【第1診】 咳の状態(黄痰、粘性発汗)から熱痰あり。寒がり・冷風で発作好発・鼻炎(清涕)から風寒・寒痰あり、と判断。そこで熱痰に麻杏甘石湯、風寒・寒飲に小青竜湯と考え小青竜湯合麻杏甘石湯を基本に用いることにする。また、扁桃腺の化膿も影響していると考え、小柴胡湯加桔梗石膏を併用する。(9/15) 処方1)小青竜湯3.0/9.0g+麻杏甘石湯3.0/6.0g+小柴胡湯4.0/7.5+桔梗石膏3.0/6.0g 分2 ×7日分 【第2、3、4診】 咳・痰は減少したが発作は同じ(ステロイド使用頻度は同じ)。もう少し様子を見る。 処方1) do. ×7日分×3回 【第5診】 喘息発作はここ2週間ほど落ち着いていたが、朝晩が少し冷えてきた(10/26)ためか喘息発作が再発。 処方1) do. ×7日分 【第6診】 咳嗽・喘息発作はほぼ漢方服用前の状態に戻る。また、咽痛・微熱(37.2℃)あり。 処方2)銀翹散7.5/7.5g ×5日分 【第7診】 処方2)で咽痛・発熱は良好。小柴胡湯加桔梗石膏を5週間服用したにもかかわらず咽痛・発熱を起こしたということは、この咽痛には小柴胡湯加桔梗石膏は無効と判断。扁桃腺に膿栓多数付着から排膿を咽痛治療の主眼とする。 処方3)小青竜湯4.5g+麻杏甘石湯3.0/6.0g ×14日分 処方4)排膿散及湯(錠剤) 適量 【第8診】 咳・痰は減少したが喘息発作の頻度は同じ。患者自身から、これは関係ないことかもしれませんがと前置きしたうえで「食後や食べ過ぎた時に喘息発作が出やすい気がする」とのこと。確かに肥満気味ではある。そこで「食積喘息」と考え五積散を併用することにする。 処方5)小青竜湯3.0/9.0g+麻杏甘石湯2.0/6.0g+五積散4.5/9.0g 分2 ×7日分 【第9診】 咳嗽、喘息発作、50%ほどに減少。いい感じ。また耳前の瘻孔からの排膿減少。頬のはれぼったさも改善。 処方5) do. ×14日分 処方4) do. ×1瓶 【第10診】 良好。30%ほどに改善。 処方5) do. ×14日分 処方4) do. ×1瓶 【第11診】 咳・喘息ほとんど出ず。冬季(12月)にもかかわらず、咽痛・咳喘息発作が出ないのはとてもうれしいとのこと。この後半年ほど服用を続け、処方5)は廃薬、処方4)は継続服用。 |
考察
患者のちょっとした一言が治療のきっかけになった。食後は副交感神経優位になる。それが喘息発作に影響する場合、これを「食積喘息」と称し、肺と脾胃とを同時に治療する処方を用いなければならない。基本に五積散を用いる。輪寿彦著『漢方診療レッスン(P76)』に「41歳の女性。肥満、冷え性、腰痛、鼻アレルギーがある。「喘息発作は食べ過ぎる」とき起こるという。五積散が効いた。五積は「気・血・痰・寒・食」の5つの病理的産物の体内への停滞を指すが「食積」とはこのような「食べ過ぎると喘息発作が起こる」ことも指すのだと思った。」とある。
本案においては熱痰と表寒寒飲は間違いなくある。さらに膿栓を伴う扁桃腺肥大、黄痰・耳前の膿汁など頭面部の膿毒も影響していると思われる。まとめると本案の病態は食積、熱痰、風寒寒飲、熱毒の四つの病変が絡み合い咳喘息を形成しているもの考えられる。よってそれぞれ五積散、麻杏甘石湯、小青竜湯、排膿散及湯を用いた。