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症例紹介

歯科治療時の不安・動悸・めまい

【症例153】 40歳、 女性
身長157㎝、体重50㎏。

症例キーワード: 不安

主訴

歯科治療時の不安・動悸・めまい
 歯科にて奥歯治療をしているが、治療の際の研磨音・振動などなどが怖く、動悸・不安、めまいに苦しんでいる。これらの症状のため現在歯科治療は休止中。これをなんとかしようと心療内科を受診、抗不安薬を処方されたが吐き気・もたれ・食欲不振・気分不良といった症状のため中止。そこで漢方はどうかと柴胡加竜骨牡蛎湯、苓桂朮甘湯、帰脾湯、加味逍遙散、抑肝散など投与されたがいずれも1~2日分服用しただけで同症状のため中止。
また、平素から様々な(物理的・心理的)刺激に敏感ですぐ頭痛・めまい・吐き気・手足の厥冷が起こる。
ある時、元気をつけようとエナジードリンクを飲んだら症状がひどくなり一日寝込んだこともある。コーヒー、紅茶でも軽いが似た症状が起こる。
血圧は118-68、脈拍68。
貧血の既往歴あり(10年ほど前。治療済み)。再発を疑って先日血液検査したが赤血球・ヘモグロビンいずれも正常値という。
【病歴】
30歳の時、子宮頸がん手術。

全身症状
寒熱 冷え性(++)⇒靴下寝 冷えのぼせなし
二便 大便2~3日に1回。
小便1日6~7回。色平・量平、夜間尿(-)
飲食 食欲(少)、食量(少)
婦科 :周期(28日)、経期(5日)、経血量(平)・色(淡)、月経痛(微)、崩漏(月経開始1週間ほど前から少量が続く)
全身 倦怠無力(++)、特に朝が弱い。車暈(++) 浮腫:なし
睡眠 良好
心神 神経質・心配性(++)・不安・うつうつ、坂道気短(+)
頭痛(年に数回強いものあり)
胃腸 胃痛(-)、些細な(物理的・心理的)刺激で食欲不振・もたれ・吐き気を起こす
面色萎黄   
舌質胖大・淡 舌苔微白
四肢 肩こり(左右とも、項背強・頸項強とも)

経過・結果

【第1診】

 主訴の不安・動悸・めまいは歯科治療の心理刺激による自律神経由来の症状であろう。いわば気の乱れである。ただし、これを単に気の乱れだけで対処するわけにはいかないだろう。背景に横たわる虚弱かつ過敏な体質が大きく影響していると考えるべきである。その体質の本質とは・・?。坂道気短、冷え性(++)、朝が非常に弱い、頭痛、崩漏などから鉄欠乏性貧血があるのではないか。赤血球・ヘモグロビンは正常とのことであるがフェリチンが未測定である。赤血球・ヘモグロビンが正常でもフェリチンが低い、いわゆる「かくれ貧血」ということがある。その旨説明し再度血液検査を進める。投薬なし。

【第2診】

血液検査の結果、フェリチンが「5」(女性の正常値6.4~167)とのこと。鉄剤の注射開始。10回を予定。現在、鉄剤注射2回打っただけであるが、今まであった頭の霧が取れ、目が開いた感じ、という。ここで貧血治療と並行して漢方治療を行うことにする。まずは「服薬過敏(薬煩)」を治療することにする。抗不安薬・柴胡加竜骨牡蛎湯、苓桂朮甘湯、帰脾湯、加味逍遙散、抑肝散などに過敏に反応している。その症状が胃腸に集中していることから肝気鬱結、脾胃虚弱と考え柴芍六君子湯を用いることにする。

処方1) 柴芍六君子湯(2.0/6.0g) 分2 ×7日分 

【第34診】

 服薬過敏起こらず。なんとなくいい感じという。もう少し続けてみる。

処方1) do. ×14日分 ×2回

【第58診】

 鉄剤注射8回終了。元気が出てきた。空腹感も出てきた。朝の目覚めもよい感じ。体調不良も起こりにくい。そこでいよいよ自律神経の乱れに着手する。不安・動悸・めまいを崩漏と併せ考え、これを心血の不足に由来するものと判断し帰脾湯を併用する。鉄剤で鉄を補給しても崩漏で失われたら貧血が再発するのは時間の問題である。根本治療に崩漏を止めることは必須である。

処方2 柴芍六君子湯(3.0/6.0g)+帰脾湯(5.0/7.5) 分2 ×14日分×6回

【第914診】

 体調良好。鉄剤終了。ここで歯科治療を再開。ただし、崩漏は続いている。そこで直接的に止血することにし、田七を加味する。

処方3 柴芍六君子湯(3.0/6.0g)+帰脾湯(5.0/7.5g)+田七末2.0g 分2 ×14日分 

【第15診~】

 歯科治療は体調不良起こらず。自信がないときは抗不安薬を服用して歯科に行く(抗不安薬を服用しても服薬過敏が起こらないようになったとのこと)。また崩漏もなくなった。本人曰く「精神不安・精神過敏はいまだに時折あらわれるが漢方薬を飲んでいると安定する。しばらく服用を続けたい」と。

考察

症状安定まで5か月かかる長期治療になった。
基礎にある鉄欠乏性貧血の確認・治療⇒薬煩の治療⇒自律神経の治療⇒崩漏の治療といった4段階の治療になった。フェリチン「5」とは鉄の貯蔵が枯渇寸前ということであり危険領域である。
止血について。帰脾湯の止血作用はさほど強くない。多くの場合田七を併用している。まず田七1~2g併用。無効の場合、田七を3~5gと増量し、それでも無効の場合、芎帰膠艾湯をさらに併用する。
 

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