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症例紹介

痔瘻

【症例1】 35歳、 男性
身長162センチ、体重53キロ。痩せ型。

症例キーワード: 痔瘻

主訴

 15年程前に発症し、10年前に一度瘻管のくりぬき手術を行い、その直後は調子よかったが、5年程前から再発し良くなったり悪くなったりを繰り返して今日にいたる。
現在の症状は、肛門周囲がコリコリと硬く盛り上がり、その表面はブヨブヨと腫れ、二ヶ所から薄い褐色を帯びた透明な膿汁が少量ずつ出ている。この患部を指で押すと更にジワーッとにじみ出てくる。更に押しつづけると膿汁に暗赤色の血液が混じってくる。患部に熱感や痛みはほとんどないが、排便後と入床時に痒みがある。痔核、肛裂、脱肛などはない。膿汁の量はさほど多くはないが用心のため、漏れ出ないような特殊な下着をつけている。

全身症状
寒熱 下肢は冷える傾向にあり冬は靴下を履いて寝ることもある。
二便 大便1日1行。
小便1日4~5行、色・量ともに平。
飲食 食事の量はやや少なめ。飲水は平。
全身 疲れやすく風邪もひきやすい。
胸腹 非常に神経質ですぐ胃が痛くなりやすい。
舌質平、舌苔微滑。
嗜好 酒・タバコは一切やらない。

経過・結果

第1診

痔瘻の治療は一般に、肛門周囲に瘡口を形成する前と瘡口が形成され排膿した後の二段階に分かれる。瘡口を形成する前の段階では湿熱による発赤・腫脹・疼痛が主症状となり、治法は清熱利湿、治方は竜胆瀉肝湯である。一方、瘡口が形成された後は清熱利湿と気血双補・托毒生肌とを症状を見ながら併せて行ってゆく。さて今回の患者の場合、疼痛・発赤・腫脹・黄色で粘膩性膿汁の分泌などの湿熱症状はほとんど既になくなっており、清希な膿汁の分泌を主症状とする気血両虚の局面を示している。また、再発してから5年の間という長い間よくなったり悪くなったりを繰り返していることと、膿汁に暗赤色の血液を交えていることとを併せて考えると血瘀も存在すると考えるべきであろう。以上より気血両虚・血瘀による痔瘻と弁証し、気血双補、托毒生肌、活血療傷を行うべく

処方1)帰耆建中湯合排膿散及湯合桂枝茯苓丸料を7日分投与(3/12)。
患部には紫雲膏使用。

帰耆建中湯合排膿散及湯合桂枝茯苓丸料
当帰(酒洗)3.0、桂皮(ベトナム)3.0、乾生姜1.0、大棗3.0、芍薬(酒炙)

第2診

3/14 患者から膿汁が増加、痛みも出てきているが大丈夫かとの問い合わせの電話あり。かまわず継続服用するよう指導。

第3診

3/20 7日分飲み終え更に

処方1)を7日分投与。

第4診

3/27 膿汁の量は同じくらいであるが痛みがなくなった。

処方1)を14日分投与。

第5診

4/15 膿汁の分泌減少。痒みも減少。ブヨブヨとしていた患部がしまってきて、そこの皮膚がヒダ状に余ってきている。

処方1)28日分投与。

第6診

5/20 ほとんど膿汁と痒みはない。患部表面のブヨブヨがなくなりその下層の硬くコリコリとしていた部分も柔らかくなりつつある。患者曰く「まるで肛門が小さくなったようだ」と。

処方1)28日分投与。

第7診

6/11 電話あり。昨夜睡眠中に肛門の違和感で目がさめた。やや腫れてきている様であるがかまわず寝てしまった。翌朝目がさめると肛門周囲部から膿汁と黒っぽい血液が流れ出しており下着に直径5センチ程のシミを作っていた。大丈夫か、との問い。おそらく肛門周囲部に以前からある排膿されていなかった膿毒が排出されたものであろうと判断し、その旨を説明し継続服用を指示。

第8診

6/22 新たな膿汁もだいぶ減少してきている。この後、約3ヶ月

処方1)を投与し肛門周囲部のコリコリがほぼ消失したのを確認の後廃薬。

考察

 半年にわたる格闘の末ようやく治癒にこぎつけた例である。気血両虚型の排膿不十分な痔瘻の場合は、その治療過程において服用後、膿汁の分泌増加や軽い痛みを生じ一見悪化しているように見えることがあるが、これは大抵の場合一過性の反応で次第に収まるので心配いらない。途中新たに瘡口が開き排膿が始まったのは予想外であった。処方は終始「帰耆建中湯合排膿散及湯合桂枝茯苓丸」で通したが、結果論として、症状改善のペースが遅かったことと、患者が虚寒の傾向にあることとから上記処方に附子を加えても良かったかもしれない。

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