股関節手術後の腰痛・神経痛

【症例45】 66歳、 女性
身長150㎝、体重46㎏
主訴
三年前、右股関節の人工関節置換手術を行い、その後に腰痛及び両下肢外側の神経痛を発症。神経痛は、右>左、ジーンジーンとした痛み。労作時・陰天時・寒冷時に悪化し、入浴後に軽減。はじめは手術した右側だけであったが、右足をかばうように歩くうちに左側も痛むようになった。下肢は触ると氷のように冷たく、わずかに汗で湿潤している。下腿部に浮腫あり。全身的にお元気で、筋肉そのものも軟弱ではない。
全身症状
| 寒熱 | 上下肢ともに強い冷え症。冬は電気毛布使用。 |
|---|---|
| 二便 | 大便1日1行。 小便1日10行~。夜間0行。色は清、量は平。 |
| 飲食 | 食欲(平)、暖かい湯茶を好む。 |
| 全身 | 倦怠無力(-) |
| 胸腹 | 平 |
| 浮腫 | 下腿部にすこし |
| 睡眠 | 良好 |
| 心神 | 良好 |
| 汗 | 平素より自汗傾向 |
| 頭 | 平 |
| 面 | 面色は不華で萎黄を帯びる。 |
| 舌 | 舌質淡、舌苔微黄、舌辺に瘀点あり |
| 体型 | 痩せ型 |
| 血圧 | 110~66 |
経過・結果
第1診処方1)五積散加附子(2.0g)×14日分 五積散加附子 |
第2診服用後は少し温まる感じがするが、痛みの改善はほとんどない。 処方2)五積散加附子(2.0g→5.0g) ×14日分 |
第3診処方1)の服用時と大差ない感じ。 処方3)当帰四逆湯『衛生宝鑑』(附子5.0g)×14日分 当帰四逆湯『衛生宝鑑』 |
第4診著効あり。服用直後より手足が暖かくなりとても気持ちがよい。腰痛・神経痛は一週間後にはほとんど消失。家業の農作業も苦にならなくなった。 処方3) do.×14日分 |
第5診服用中は、足腰はもちろんのこと全身的に気分がよいともことで処方3)の服用を五か月間継続。夏季に至って漸減ののち廃薬。 |
考察
基本病理として、手術後ということと年齢等から腎虚も考えられたが、冷えが非常に顕著であったことから冷えによる痛みと考え、これを除くことを治療方針とした。五積散は津田玄仙の五大目標の一つ「腰冷痛」を考え用いたが無効であった。汗があったためかもしれないが、よくはわからない。衛生宝鑑・当帰四逆湯は寒痺の基本処方として、腰痛・神経痛などに好んで用いている。衛生宝鑑・当帰四逆湯は柴胡に附子を伍しているところが非常に特徴的な処方である。当帰・桂皮・茴香・附子といった温熱性の薬物群で気血を強力にめぐらし、この作用を柴胡で肝経に引っ張り込む、という方意である。大腿外側はちょうど肝経に該当する。衛生宝鑑・巻十八・疝気治験に「治臍腹冷痛、相引腰胯而痛」とある。つまり、最初から寒冷由来の腰痛・神経痛の治療を目標に作られた処方である。
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