下肢むくみ
【症例100】 58歳、 女性
身長162cm、体重80㎏、色白、肥満体形
症例キーワード: むくみ
主訴
下肢むくみ。
発症はだいぶ前から。むくみは主として両下肢にあるが、顔をはじめ他の部分もむくんだ状態にある。下半身のだるさ、足部のしびれ感、冷感を伴う。ひざ痛・心悸・気短はいずれもない。下肢浮腫部位は指圧痕(+)、その皮膚はきめ細かく、張りがない。また、左下肢は右下肢と比して明らかに暗紅色を呈している。以前、病院にて防己黄耆湯(3ヵ月)、薏苡仁湯(1か月)、五苓散(1か月)、牛車腎気丸(3ヵ月)等を服用したがいずれも無効。
全身症状
寒熱 | 冷え性、特に下半身 |
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二便 | 大便:2~3日/行 小便:3~4行/日、量は少ない |
飲食 | 食欲:平~多 飲水:1.5~2ℓ(健康のためと意識してたくさん飲んでいる) |
全身 | 疲れやすい |
睡眠 | 不眠傾向 |
心神 | イライラしやすい |
汗 | 冬は問題ないが、夏は多汗状態(上半身多汗、顔は汗玉が流れ落ちるほど) |
頭 | 頭痛(−)、頭暈(少し) |
胃腸 | 良好 |
目・耳・鼻 | 良好 |
月経 | 51歳で閉経、婦人科器質病変なし |
舌 | 舌質淡胖、舌苔白微潤 |
皮膚 | アザができやすい |
経過・結果
【第1診】 汗出而浮腫、上汗下腫、きめ細かく張りのない皮膚などから黄耆体質と判断。下肢の顕著な浮腫から防己黄耆湯を選択。ただし、同処方を3ヵ月も服用したが無効だったことから防己黄耆湯単独では不足と思われる。左下肢が右下肢と比して明らかに暗紅色を呈していることから下半身に血瘀ありと判断。これが浮腫の根本にあるのではないかと考え、便秘があることから大黄牡丹皮湯、通導散などの大黄配合駆瘀血剤も考えたが下肢血瘀に特異的効果を発揮する芎帰調血飲第一加減を合して用いることにする。 また、必要以上に水を飲む必要はなく、乾いたら飲む程度で十分であることを説明し、飲水量を減らすことを指導。 処方1)防己黄耆湯6.0/6.0g+芎帰調血飲第一加減5.0/7.5g 分2 7日分 【第2診】 服用2日目から尿量増加。曰く「日中、尿がほとばしるように出てびっくりした。また普段はない夜間排尿が3回あり多量の排尿があった。」と。更には服用5日目には便通がよくなった。 処方1) do. 分2 14日分 【第3診】 下半身のむくみ(↓)、側部のしびれ感(↓)、体重1.3㎏(↓)。体が軽くなって調子よい。 処方1) do. 分2 14日分 【第4診】 体重は更に0.8㎏(↓)。むくみ(↓)。ただし左下肢のほうが右下肢よりもわずかに太い。 処方1) do. 分2 14日分 【第5診~】 体重は都合−2.4㎏以後は横ばい。ただ、むくみが取れて体が軽いのがうれしい。発汗の変化は(現在冬なので)よくわからない。 以降は経済的理由にて服用量を半減して服用継続するとのこと。もし、むくみが強くなったら満量服用するよう指導。 |
考察
非常に興味深い症例である。典型的防己黄耆湯症にも拘わらず防已黄耆湯単独服用で効果なく、芎帰調血飲第一加減を併用してはじめて効果を発揮した。もともと下肢は構造的に血瘀を生じやすい。そこに黄耆体質(防已黄耆湯体質)が重なった症例と考えるべきであろうか。下肢血瘀は「静脈瘤」として確認でき、立ち仕事の人(調理師)や経産婦によくみられる。今回の場合、立ち仕事でもないし静脈瘤も確認できなかったが、「左下肢の暗紅色」をもって血瘀と判断した。
芎帰調血飲第一加減は下肢の血瘀には特異的効果を発揮する。下肢静脈瘤はもとより、足関節痛・膝関節痛・股関節痛などにも関節痛を直接治療する処方を併用して効果を収めることが多い。例えば膝痛に防己黄耆湯合芎帰調血飲第一加減、麻杏甘石湯合芎帰調血飲第一加減、独活寄生湯合芎帰調血飲第一加減、(疎経活血湯合芎帰調血飲第一加減)など。
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