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症例紹介

食中毒後の下肢の浮腫

【症例118】 35歳、 女性
身長165cm、体重33㎏。かなり痩せている。

症例キーワード: むくみ

主訴

食中毒後の下腿の浮腫。スイカを食したが、これが傷んでいたらしく食中毒を起こした。40度の発熱、腹痛、激しい下痢で1週間ほど入院。その間は絶食で点滴のみで過ごす。退院翌日から下腿部に浮腫を生じる。浮腫は膝関節と足関節に顕著に表れ、触るとぶよぶよした感じ。指圧痕(+)。患部に熱感はなく、むしろつま先部はひんやりとして冷たい。体重は入院前33.0㎏、退院後38.3㎏に増加。
 またモデルが職業で、平素からダイエットを心掛け食事制限を行っている。

全身症状
寒熱 平素から冷え性。
二便 大便:平素は2日/行。退院後は毎日ある。
小便:平素は5~6行/日。退院後は3~4行/日、量少。
飲食 食欲:平素から少量
飲水:少しのどの乾燥を感じることはあるが、多飲することはない。
全身 全身倦怠(+)、坂道・階段での気短(+)
浮腫 上気のごとし。上半身にはない。
舌質:胖大・嫩

経過・結果

【第1診】

入院の前後で体重が約5㎏増加し、その間絶食していたことを考えると、点滴の水分の排泄が悪くて起こった浮腫と思われる。また、平素からのダイエット傾向と体重33㎏という痩せ状態から考えると低たんぱく血症も浮腫に影響していると思われる。そこで利水剤とアミノ酸製剤とを併用することにする。

利水剤には、口渇はないが尿不利からとりあえず五苓散を用いて様子を見ることにする。

処方1五苓散(エキス散)6.0/6.0g 分2  ×7日分

処方2アミノ酸製剤 適量

【第2診】

7日後来局。浮腫改善なし。尿量増加なし。体重変化なし。

そこで再考。浮腫が下腿部に限局的であること、幹部はぶよぶよと軟らかいこと、つま先の冷えがあること、更に全身倦怠と気短があること、舌症、などから腎虚による水腫つまり腎陽虚水泛と考え真武湯を基本に用いることにする。また平素からの羸痩・ダイエットおよび食中毒による下痢及びその後の虚状を合わせ考えると気陰両虚も併発していると考え、生脈散を併用することにする。

処方3真武湯(エキス散)4.0/6.0g+生脈散(エキス散)3.0/3.0g 分2

×7日分

【第3診】

浮腫は半分ほどに改善。尿量増加。体重36.2㎏。元気が出てきた感じ。

この時点で病院へ行き血期検査をした。以下その結果

総蛋白:5.1(6.7−8.3)

アルブミン:3.0(4.0−5.0)

白血球84(35−93)

赤血球316(365−500)

ヘモグロビン9.5(11.0−15.1)

 

この結果を受け、アミノ酸製剤の服用量を増量指示。

処方3 do. ×7日分

処方2アミノ酸製剤 通常の2倍

【第4診】

浮腫ほぼ消失。体重33.1㎏、ほぼ入院前にもどる。体力的にまだ自信がないので念のためもう少し服用を続けたいとの希望により、さらに14日分投与。

処方3) do. ×14日分

 

考察

後になって考えると本案は典型的な腎虚による浮腫で、安易に五苓散を用いたのは間違いであった。浮腫が下半身に限局的であること、ぶよぶよしていること、つま先が冷たいことなどから腎陽虚水泛による浮腫と判断した。腎陽虚水泛は現代医学的にはある種の「うっ血性心不全」である。心不全の浮腫は下肢から起こり気短を伴う。漢方的には腎の病変だが現代医学的には心の病変である。このあたり用語が交錯している。真武湯はある種の強心利尿薬といってよい。その主薬はもちろん附子である。本案を構造的に考えると、平素からダイエット・羸痩による虚状があり、食中毒により一気に体力が低下し、そして点滴の注入などの複数の要素が絡み合い電解質異常を引き起こして心臓機能が低下し、その結果下腿部に浮腫を引き起こしたものと考えられる。
自家経験であるが、これまで似たような浮腫に真武湯単独をしばしば用いてきたが、なかなかよい結果が出せずにいた。何か良い方法はないかと文献をあさる。その中で、特に興味を引いたのが浅田宗伯著『橘窓書影』(9案)と山田業精著『井見集付録』(6案)であった。これらの内容を簡単にまとめると「痢病・疫病の治療後・瀉剤の使用後」に起こる「虚脱・浮腫・気短・但欲寐」などに真武湯合生脈散を用いていた。これに倣い、真武湯を用いる状況で浮腫の顕著な場合には生脈散を併用して用い、結果効果を上げることが出来るようになった。本案はその一例である。花輪寿彦著『漢方診療レッスン』にも「真武湯合生脈散:真武湯+人参・麦門冬各6g、五味子3g 真武湯の循環器症状に対する加味処方。特に心不全に用いる」とある。
 生脈散。補中益気湯と同様に『内外傷弁惑論』を出典とする処方で、一般に気陰両虚にもちいられる。気陰両虚とは発汗・嘔吐・下痢などによる体液の喪失とこれに伴う虚脱と考えている。人参・麦門冬・五味子のたった三味の処方であるが結構優れものである。人参・麦門冬は体液(血漿)を保持し五味子は止汗し結果循環血液量を増加させ、かつこの三味はいずれも弱いながら強心作用を持っている。生脈散単独では夏季の発汗過多による虚脱、いわゆる夏バテへの応用が有名である。単独で用いる場合もあるが多くは合方・合剤として用いている。清暑益気湯、補中益気湯合生脈散、真武湯合生脈散の三つである。清暑益気湯は夏バテ及び慢性肝炎の初期、補中益気湯合生脈散は補中益気湯を用いる状況で虚咳のあるもの、真武湯合生脈散は腎陽虚水泛による虚脱・浮腫・気短のあるものに用いている。

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