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症例紹介

右(腰~臀部~下肢外側)の痛み。

【症例126】 84歳、 女性
身長147cm、体重55㎏、小柄

症例キーワード: ぎっくり腰腰痛膝痛、神経痛関節痛

主訴

右(腰~臀部~下肢外側)の痛み。
昼間は運動起動時・歩行時、夜は寝ているときに鈍くジーンと痛む。また、靴を履くとき座った状態で前かがみになる場合、あるいは着替えでベッドの上でパンツをはく時など右患部の「スジが引っかかる」ように痛むという。
陰天悪化(−)、入浴後改善(−)。家の中では手すりの伝い歩き、外出時は杖2本を使用。下半身は痩せていて、歩く様子もよたよたとして不安定。
<病歴>
乳がん手術(15年前)
左ひざ手術(10年前)
左下肢静脈瘤手術(6年前)
<服用薬>
ロキソニン(2T分2)
胃薬
スタチン
デパス

全身症状
寒熱 下肢冷え性
二便 大便:1日1行、快便
小便:1日5~6行、夜間3行、色量ともに平
飲食 食欲(平)、飲水(平)
全身 疲労倦怠(−)、容易感冒(−)
浮腫 なし
睡眠 途中で目ざめるのでデパス使用
心神 良好
出やすい
頭痛(−)、頭暈(−)
四肢 杖を使うためか両肩ががちがちに凝っていて鍼灸院にて針治療をしている。

経過・結果

<経過・結果>

【第1診】

痛みは「昼間の運動痛」と「夜間の自発痛」といった二つの性格があるようである。本人は「夜間の自発痛」を先に何とかしてほしいとのこと。

「夜間の自発痛」は一般に血瘀由来、一方「昼間の運動痛」は84歳という高齢であること、歩き方がよたよたとして不安定であることなどから腎虚由来と考えられる。虚実入れ混じる場合は補を先にし、瀉を後にするかあるいは補瀉併用するのが定石であるが、本人の希望に従い夜間痛を第一の治療目標にする。

疎経活血湯を基本とし、そこに鎮痛作用を強化すべく地竜を加味する。

処方1疎経活血湯(エキス)3.0/4.5g+地竜(エキス)1.0g 分2×14日分

【第2診】

「夜間の自発痛」は半分ほどに軽減。ただし、「日中の運動痛」はかわらず。本人は夜間の痛みが軽減したことに気をよくし、昼間の痛みも取ってほしいと希望。処方1に独活寄生湯を併用することにする。

処方2疎経活血湯(エキス)2.0/4.5g+地竜(エキス)1.0g+独活寄生湯(エキス)3.0/6.0g 分2×14日分

【第3診】

あまり改善なし。そこで筋肉の攣縮をほどくべく芍薬甘草湯を更に併用する。

処方3疎経活血湯(エキス)2.0/4.5g+地竜(エキス)1.0g+独活寄生湯(エキス)2.0/6.0g+芍薬甘草湯1.5/6.0g 分2×14日分

【第4、56診】

とてもよく効いた。今まで屋外歩行時は杖2本を使っていたが今は1本で歩けるようになった。

処方3 do. 14日分×3回

【第7診~】

良好を維持。それまでロキソニン2T/日服用していたが現在は1T/日で十分という。また、杖を使うことで痛んでいた両肩の調子もよい。「死ぬまで飲み続けます」とのこと。

考察

四剤の併用という煩雑な処方になったが、現実の臨床とはこんなものであろう。
夜間の筋肉・腱の痛みは疎経活血湯が奏功する。「手根管症候群」などに応用される。また高齢者の加齢に伴う支持組織(骨・骨膜・筋肉・腱・靭帯・軟骨)の機能低下には独活寄生湯が良い。「骨粗鬆症」や「骨すべり症」などに応用される。地竜は疎経活血湯、独活寄生湯いずれとも頗る相性が良い。
また、高齢者に用いる場合、甘草の総量は特にチェックしなければならない。本案では
甘草総和=疎経活血湯(0.22g)+地竜(0g)+独活寄生湯(0.34g)+芍薬甘草湯(1.25g)=1.81g
で十分安全圏内である。
甘草は1日総和量1~3g(安全圏)、3~5g(グレーゾーン)、5g以上(副作用が出やすい)、を大体の目安にしている。ただし、一般に女性と高齢者は甘草でむくみやすい傾向にあるので幾分差し引いて考える。


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