膀胱炎
【症例127】 80歳、 女性
女性、身長151cm、体重52㎏
症例キーワード: 膀胱炎
主訴
膀胱炎。
毎年6~10月に好発、毎年3~4回発症。その度、病院にて抗生物質治療。何とか体質改善できないかと来局。
排尿痛、頻尿、尿意急迫、残尿感、尿の混濁はないが平素から黄色。疲労後に必発。昨年は(肉眼的)血尿も2回あった。
全身症状
寒熱 | 下肢冷え性 |
---|---|
二便 | 大便:1日1行、快便 小便:1日10行~、夜間4行~、尿黄。 |
飲食 | 食欲(平)、飲水(平) |
全身 | 疲労倦怠(+) |
浮腫 | なし |
睡眠 | 夜間排尿のため熟睡する暇がない。 |
心神 | 良好 |
汗 | 平 |
舌 | 舌質紅、無苔 |
皮膚 | 乾燥して黄褐色 |
四肢 | 腰痛(+)、下半身が無力でよたよたした感じ。歩行時は必ず杖使用。 |
経過・結果
【第1診】
夏季好発、尿黄などから暑淋と判断。猪苓湯を基本とし、痙攣性症状(排尿痛、頻尿、尿意急迫)に対して芍薬甘草湯を、血尿が出ることも予見し四物湯をそれぞれ配合する。
処方1)猪苓湯(エキス)6.0/6.0g+芍薬甘草湯(エキス)3.0/6.0g+四物湯(エキス)2.0/6.0g 分2 ×7日分
【第2、3診】
良好。服用2日後ほぼ症状は消失。しばらく続けてみたい。
処方1) do. ×14日分×2回
【第4診】
良好を維持していたが7月中旬、外出する機会があったが、その2日後に発症。処方1)を服用するも以前ほど効果がないという。そこで外出を「発汗過多」と同時に「疲労」と考える。従前からの夜間排尿、腰痛、80才というご高齢、などから腎虚が基本にあり、これこそが淋症状の基本病理ではなかったのか、推論する。処方1)は四物湯に補性があるものの腎虚までは届かない。そこで四物湯を知柏地黄丸に変更して用いることにする。
処方2)猪苓湯(エキス)6.0/6.0g+芍薬甘草湯(エキス)3.0/3.0g+知柏地黄丸(エキス)3.0/10.5g 分2 ×7日分
【第5診】
良好。服用1日でほぼ症状消失。排尿に少し勢いがついた感じ。
処方2) do. ×14日
【第6、7診】
良好を維持。夜間排尿が3~4回に減少。尿も今までほど黄色でない。
処方2) do. 14日×2回
【第8診~】
2回外出する機会があったが発症せず、良好を維持。少し元気が出てきた感じ。この後は適宜服用量を調整してかまわない旨伝える。
処方2) do. 14日分~
考察
腎虚につて考えてみる。腎虚は幅が広い。四物湯系で対応できる腎虚と六味丸系で対応できる腎虚とがある。前者は独活寄生湯、滋腎通耳湯、滋腎明目湯など。後者は六味丸、杞菊地黄丸、知柏地黄丸、味麦地黄丸、八味地黄丸、牛車腎気丸など。腎虚について『方証吟味』(細野史郎著)に次のようにある。「P322 この様な場合、漢方でいう「腎虚」の症状があるのです。仙骨神経叢の支配下にある部分、例えば尿道、膀胱、大腸、結腸、直腸などの機能、すなわち排尿、排便、性交などと関係のある機能が衰えてくる年頃になると、大便も小便もすっきりで切らないというひとが多くなりますね。これらを「腎虚」の症状だと考えるのです。この症状を改善するには、やはり八味丸を根本に組んだ方を持っていくことが一番いいと思います。」また、『漢方処方の臨床応用1』(伊藤良・山本巌・神戸中医学研究会著)に「P142 筋肉がやせたりしなくても、こっちを向いたりあっちを向いたりするのがうまくいかないとか、あるいは階段なんかを上がるときに、上がったつもりでつまづいて倒れるとか、車が通ってもサッと横によれないとかいうふうに、どっちかといえば神経反射の悪い人に八味丸を使う」。つまり腎虚は単に末梢(膀胱、大腸、生殖器、下半身の筋肉)の機能低下ではなく、加齢を背景にする仙骨神経叢とその支配領域の相互機能低下と考えるべきであろう。腎虚よる脱水が顕著で膀胱粘膜の滋潤低下と機能低下に知柏地黄丸を用いる。四物湯との鑑別は本案では「尿黄」「夜間排尿」「腰痛」「下半身無力」である。
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