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症例紹介

月経閉止

【症例4】 21歳、 女性
身長148センチ、体重45キロ

症例キーワード: 月経

主訴

 昨年の8月の月経を最後にそれ以来一度もない。ちょうどその頃非常に精神的にショックな事がたて続きに起こりひどく落ち込んだ時期があった。それが直接関係あるかどうかはわからないがそれ以来だという。
<経閉以前の月経の状態>
 周期30日、経期約6日間。経痛は初日にやや下腹部が痛む程度。経血量(平)、色調(平)、血塊は5~10ミリほどのものが1~2個。

全身症状
寒熱 四肢はやや冷える傾向にある。
二便 大便1日1行。
小便1日7~8行(色平、量少)。
飲食 食欲(平)、飲水(平)
胸腹 多食時にややムカムカすることがある。
浮腫 顔はややむくみやすい傾向にある。
心神 性格はもともと几帳面で、些細なことも気になるほうである。話し方は丁寧だが、非常にせっかちでこちらがあれこれ説明する前に先回りしてあれこれ質問してくる。
汗はあまりかかないほうである。
顔色は白いほうで、ぽっちゃりとした面立ちである。
舌質淡・胖、舌苔微滑。

経過・結果

第1診

 月経閉止以前の状態および全身症状などからはこれといって大きな矛盾点も確認できない。もともとの性格を合わせ考えると同時期に続いて起きた精神的ショック以外にはないと思われる。そこで肝気鬱結による衝任疏泄失調と考え、疏肝解鬱、調和衝任を図るべく処方1)逍遙散21日分を投与(3/24)。

処方1)逍遙散21日分を投与(3/24)。

逍遙散
当帰(酒洗)3.0、芍薬(酒炙)3.0、柴胡(三島)3.0、白朮(清炒)3.0、茯苓(朝鮮)3.0、乾生姜1.0、甘草(炙)1.5、薄荷(後下)1.0

第2診

 4/18 何ら変化がない。

処方1)を更に21日分投与。

第3診

 5/12 やはり変化なし。

処方1)を更に21日分投与。

第4診

 6/5 同じく変化なし。9週間改善が見られないので逍遙散は無効と判断する。しかし全症状を確認するがやはり肝気鬱結以外に考えられない。そこで気と血とを同時にめぐらすことのできる川芎を用いることとし

処方2半夏厚朴湯加川芎を21日分投与する。

半夏厚朴湯加川芎
半夏6.0、厚朴(姜炙)3.0、茯苓(朝鮮)5.0、紫蘇葉2.0、乾生姜1.0、川芎5.0

第5診

 6/27 服薬11日目に月経開始。経期4日間、経痛(-)、血塊(-)。

処方2)を28日分投与。

第6診

 7/26 32日周期にて月経あり。経期6日間。経痛(少し)、血塊(-)。この後、エキス散を本人が希望されたので

処方3半夏厚朴湯合当帰芍薬散(エキス散各半量)として投与し、結果32日周期で月経が安定したので処方3)を都合3ヶ月服用後、漸減の後廃薬。

考察

 肝気鬱結による月経閉止に半夏厚朴湯加川芎が著効をあらわした例である。半夏厚朴湯加川芎は和田東郭翁の創作によるもので、『蕉窓雑話』の第二編に川芎の理気作用の解説とともに登場する。そして松田邦夫氏はこれをストレス性の月経閉止に用いて著効をあげておられる(氏の著書『漢方治療の実際』に詳しい)。今回の治験例はこれに倣ったものである。逍遙散は柴胡―白芍薬―当帰のラインで肝気鬱結による衝任の疏泄失調を調和する働きを持つ。確かに逍遙散は肝気鬱結の月経周期の不定には効果あるが、一度閉鎖してしまったものにはむしろ優れた香気・辛味を持つ川芎と同じく優れた理気作用を持つ厚朴との組み合わせの半夏厚朴湯加川芎の方がより適切であると今回の治験例から考察できる。

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