貨幣状湿疹
【症例8】 68歳、 女性
身長151cm、体重58㎏。やや肥満ぎみ。子供3人あり。
症例キーワード: 皮膚
主訴
4年前から。ステロイド軟膏使用で一旦は沈静化するがその後再発し、またステロイド軟膏を使用する…を繰り返して今日に至る。現在、両前腕外則と両手指の手甲側に直径10~20㎜位の貨幣状の湿疹が多数点在している。患部の色は赤~暗赤色で強い痒みを伴う。手指の湿疹部位はひび割れ、肥厚を起こし、所々出血している。また、古い箇所は暗褐色の色素沈着を残している。浸出液はない。
全身症状
寒熱 | 下肢は冷える傾向にあるが面紅・のぼせ感はない。 |
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二便 | 大便は強い便秘がある。排便は4~6日に1行、その便は硬く量は少なく、色はこげ茶色。市販の便秘薬を常用している。 小便は1日10行、清長。 |
飲食 | 食欲(平)、飲水1日2ℓくらい。 |
婦科 | 流産2回、掻爬1回。 |
舌 | 舌質微紅、舌下絡脈の怒張(++)。 |
皮膚 | あざができやすい。また、爪の色が濃赤色。 |
経過・結果
第1診患部の色状(暗赤色、色素沈着を残す)・形状(肥厚)、および全身症状(血瘀を疑わせる便秘、婦科歴、舌診、爪色)から血瘀による皮膚炎と考え、活血化瘀を行うべく 処方1)通導散加桃仁牡丹皮を14日分投与。 通導散加桃仁牡丹皮 |
第2診服薬後、すぐ便通の改善あり。気持ちよく出て助かるという。最初の14日間で貨幣状湿疹は新生のものが1~2個程度ですんでいる。また、痒みが70%ほどに減少し患部が枯れ始めている。色調は同じ。そこで、処方はこのままで時間をかければ根治できるものと考え、 処方1)を都合7ヶ月服用し、ほぼ痕跡を残さず治癒。その後も再発予防のため同処方をエキス散にて少量服用を現在も続けている。 |
考察
貨幣状湿疹は一般に、紅色・湿潤・掻痒などを特徴とする貨幣状の局面を呈する湿疹で、初期の段階では消風散が奏功することが多い。しかし今回の場合、色は暗赤色・肥厚・出血を呈し、かつ湿潤の傾向はなかった。これは、単にもともとの疾患が慢性化したための現象か、あるいはステロイド軟膏の長期使用によるためのものかはわからないが、いずれにせよ漢方的には明らかに血瘀によるものと考えられる。更に、この患者はその全身症状から基本に強く血瘀を持っているであろう事が伺える。結局のところこれが、貨幣状湿疹に大きく影響し、今回のような、いわば血瘀性貨幣状湿疹を形成したのではないかと構造的に考察している。
通導散加桃仁牡丹皮は一貫堂の経験加味方である。もともとは打撲の治療のために作られた通導散を、一般の瘀血にも対応できるように工夫されたのがこの通導散加桃仁牡丹皮である。エキス散で作る場合は通導散合桂枝茯苓丸で代用している。
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