慢性膀胱炎
【症例19】 67歳、 女性
身長160cm、体重46kg。痩せ型
症例キーワード: 膀胱炎
主訴
20年ほど前から。下腹部の痛み・不快感、頻尿が主症状。症状は秋と冬に好発。また現在、社交ダンスをやっているが大会前で練習量が増え疲れると症状が出やすいようである。症状が出た時はいつも病院で抗生剤をもらい、その場その場をしのいで早や20年たつ。発症時の病院の尿検査では細菌(+)、潜血(++)、尿の状態はいつもより黄色が濃くなり不透明、量はさほど変わらない。症状がないときは細菌(-)、潜血(+)。
<病歴>
盲腸手術10年前。また遊走腎がある。
全身症状
寒熱 | 下肢は冷えやすい。冷えのぼせなし。 |
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二便 | 大便:1日1行、普通便。 小便:1日10行、夜間排尿2行。色・量ともに平。 |
飲食 | 食欲・飲水ともに平。 |
面 | 面色萎黄 |
舌 | 舌質淡・胖、舌苔微白。 |
経過・結果
第1診顕著な症状は無いようであるが、発症時、尿に菌が確認され、尿黄・混濁から膀胱湿熱の膀胱炎と考え、 処方1)五淋散(エキス散)を14日分投与。 |
第2診改善なし。そこでより積極的に熱毒を除くため処方2)五淋散合排膿散及湯(エキス散)とするも改善なし。そこで、年齢・夜間排尿などから表実本虚・腎陽不足によるものと考え処方3)八味地黄丸料(エキス散)を14日分を2回(28日間)を投与。 |
第3診改善なし。そこで再度詳しく問診を進めるうち、次のようなことを話してくれた。「私の膀胱炎は潜血が原因なんだそうです。かかりつけの医師に『あなたの膀胱炎の原因は潜血です。この潜血にすぐバイ菌がひっついて膀胱炎を起こすんですよ。でも潜血は体質だから治らないしねぇ。』といわれました。漢方で潜血は治らないんですか」と。潜血は恐らく、遊走腎に起源を持つものであろう。一般に遊走腎は激しい運動時に出血しやすく、大会前の練習に続発して膀胱炎が起りやすいというのも説明がいく。かつ、出血(潜血)は無症状の時にも出ているので過剰運動時以外でも発症しやすいことも説明がいく。そこで上記の医師の説を是とし、止血を治療目標に考える。五淋散にも止血作用はあるが、それが結果として無効であったのは素体に陰虚があったためと考えるべきであろう。そこで、清熱利湿・補陰止血をはかるべく処方4)猪苓湯合芎帰膠艾湯とする。本人はエキス散を希望したが、その有効性を説明し煎じ薬で、14日分飲んでもらうこととした。 猪苓湯合芎帰膠艾湯 |
第4診14日分服用後、今のところ症状は出ていないが、たまたまそうなのかもしれない、と言う。もっともである。そこで処方4)を更に14日服用を続ける。今のところ良好。そこで処方2)28日分投与。結果は良好。この後も処方4)を継続服用する。結局、処方4)を約6ヶ月間服用し、その間症状が出そうになったことが3回かあったが抗生剤の使用は1回のみで、その他は何とか乗り越ることができた。途中、ダンスの大会があったが今までのようなことはなかった。この時点で病院の潜血検査は(±~+)である。煎じ薬が面倒ということで処方5)猪苓湯合芎帰膠艾湯(いずれもエキス散・各満量)に変更。煎じ薬とエキス散との効果の差が気になりしばらく様子を見たが問題なかった。現在、再発予防のため量を減じて服用中である。 |
考察
一般論で述べると、煎じ薬とエキス製剤とでは、煎じ薬のほうが効き目がよい。ただ注意すべきは、すべての処方が同じ程度でその効き目に差が出るわけではない、ということである。要するに、効き目に大きく差が出る処方もあればあまり差が出ない処方もある。猪苓湯、芎帰膠艾湯はいずれも差が大きく出やすい処方である。その理由のひとつは構成生薬の阿膠にあると考えている。生薬の阿膠と、エキス製剤に使われる阿膠の代用品つまりゼラチンとで、その止血作用を比較した場合、大きくゼラチンは劣る。上記の理由をもって今回の治療には敢えて煎じ薬で猪苓湯合芎帰膠艾湯を飲んでいただいた。
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