自律神経失調症
【症例37】 37歳、 女性
身長156㎝、体重51㎏
主訴
① 心悸・胸満感・顔面のほてり及びこれらに伴う不安感・体の震え感。
② 緊張後の下利。
③ 不眠の傾向
以前、①の治療目的で桂枝加竜骨牡蠣湯を半年ほど服用したが無効だった。①②③いずれも5年前に転職し現在の仕事についてから発症した。もともと緊張しやすい性格。現在の仕事はミスが許されない仕事のためか、だんだんと症状が出てきたようである、とのこと。①は発作的に起こる。②は大勢の人の前で発表したりなどした後に好発。腹痛は伴わない。排便後はすっきりとする。病院にて4年前からリーゼ2T、アモバン2T服用中。
全身症状
寒熱 | 冷え症(-) |
---|---|
二便 | 大便1日1行。 小便1日7~8行、夜間0行、色・量ともに平 |
飲食 | 食欲(平)、飲水(平) |
全身 | 疲れやすい、風邪をひきやすい |
心神 | もともと緊張しやすく、上り症 |
汗 | 平 |
月経 | 周期(28日)、経期(5日間)、経痛(腰に少し) |
面 | 面色:白 |
舌 | 舌質淡、舌苔微白 |
嗜好 | 飲酒(ビール少し)、煙草(-) |
皮膚 | 平 |
体型 | 普通 |
血圧 | 110-70 |
脈拍 | 93/分 |
経過・結果
第1診➀過度の緊張のため生じた気上衝による心悸・胸満及び不安感・震え感と思われる。心悸・胸満及び不安感に柴胡桂枝乾姜湯、震え感に半夏厚朴湯、この両者を合方して用いる。 ➁同じく過度の緊張が原因と思われる。半夏瀉心湯を用いる。 処方1)柴胡桂枝乾姜湯合半夏厚朴湯を食前に、処方2)半夏瀉心湯を食後に服用してもらうことにする。 処方1)柴胡桂枝乾姜湯+半夏厚朴湯 処方2)半夏瀉心湯(医療エキス剤の1/2量の錠剤)1日3回 食後 7日分 |
第2診服用3日後、「心悸・不眠が悪化した。大丈夫か?」との電話あり。そこで「それぞれ服用量を1/2として服用を続けてください」と答える。 2週間後、不眠は少し改善したが他の症状は服用前と同じレベルとのこと。 そこで、服用量をそれぞれ最初の量に戻し服用するようにしてもらう。 2週間後、②はほとんど起こらなくなった。ただ①は変化なし。そこで処方3)柴胡桂枝乾姜湯+半夏厚朴湯+黄連(0.5g)を用いる。2週間後、①はだいぶ良くなったととても喜んでいる。その後、人前での発表や人間関係のため症状が多少悪化することはあったものの処方2)3)にて何とかやり過ごすことができた。1年後にはリーゼ及びアモバンの離脱に成功。その後も量を減じて服用を続けている。 処方3) 柴胡桂枝乾姜湯+半夏厚朴湯+黄連(柴胡7.0、桂枝4.0、栝楼根3.0、黄芩3.0、牡蠣6.0、乾生姜2.0、甘草2.0、半夏3.0、茯苓10.0、厚朴3.0、蘇葉2.0、黄連0.5) |
考察
半夏瀉心湯および柴胡桂枝乾姜湯合半夏厚朴湯に黄連を加味して以後症状が改善していることから、この患者には黄連がうまく適合したようである。黄連の決め手は顔面のほてりと脈数。心悸・胸満・不安感は気上衝によるもので桂皮・甘草・牡蠣が行く。体の震え感は筋肉の過緊張によるもので厚朴が行く。
服用量の問題:使用する薬剤が適切でも使用量が適切でなければうまくゆかない。多すぎるとかえって症状の悪化を招き、不足の場合は効果発現に至らない。この辺りの量の加減が難しい。一般に、気の異常による場合は少量(1/2~1/4)から用いるほうがよいと考えている。一方、炎症性の疾患の場合は2倍、3倍必要な場合もある。今回の服用直後の悪化は初回量が多すぎたものと思われる。
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