一年ほど前にようやく自然妊娠したが9週目で流産。以後妊娠しない。
【症例46】 29歳、 女性
身長158㎝、体重45㎏
症例キーワード: 不妊
主訴
不妊。25歳で結婚。一年ほど前にようやく自然妊娠したが9週目で流産。以後妊娠しない。子宮筋腫・内膜症、高プロラクチン血症などいずれもない。Hb値が下限ギリギリ。月経周期30日、経期7日間、経痛(-)、経血量は流産後やや減少、血塊(-)。基礎体温表は現在つけていないが、以前の記録では二層に分かれ、排卵はあった。病院治療は受けていない。クラミジア等の感染症の履歴もない。夫の検査はしていない。
全身症状
寒熱 | 冬は冷え症で特に足が冷え、同時に冷えのぼせもある。 |
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二便 | 大便2~3日に1回。便秘しがち。 小便:1日5~6回、清長。 |
飲食 | 食欲(平)、飲水(平) |
全身 | 疲れやすい。容易感冒(-) |
胸腹 | 胃脘痛(-)、経前乳脹(微) |
浮腫 | 無 |
睡眠 | 良好 |
心神 | 上り症 |
汗 | 手掌・腋下に汗が出やすい。緊張するとこの傾向が強く、このときのぼせ感と動悸を伴う。 |
口 | 口唇乾燥(-) |
目・耳・鼻 | 特記なし |
面 | 萎黄・白 |
舌 | 舌質(平)、舌苔(微白) |
皮膚 | しもやけ(-) |
体型 | 痩せ型。下腹墜脹あり。 |
経過・結果
第1、2診子宮筋腫など器質異常がないことから、機能的な不妊と考えられる。月経の周期が安定し、排卵があることから、ホルモンに極端な乱れはないと考えられる。漢方的には、「冷え(陽虚)」・「のぼせ(気上衝)」・「つかれ(気虚)」などが考えられる。しかし、流産後を経ていることから、「流産による血瘀」を取り除くことが最優先課題と考え、処方1)芎帰調血飲第一加減を2~3か月ほど用い、その後状況に応じて「陽虚」「気上衝」「気虚」の治療を併用することにする。なお、今後「基礎体温表」をつけるよう指導。さらに「腰湯」の励行も指導。 処方1)芎帰調血飲第一加減(47.0g/47.0g)×14日分×2回 芎帰調血飲第一加減 |
第3診月経あり。周期31日目。経期7日間。経血の増加あり。それまでなかった月経中の腹満あり。月経最終日に暗褐色の経血が大量に出た。 処方1) do.×14日分 |
第4診高温期に入ったが基礎体温36.5前後。 処方1) do.×14日分 |
第5診月経あり。高温期は結局11日間ほぼ36.5前後で経過。経血量更に増加。月経痛?(大便排泄時に月経痛様の下腹痛が起こり排便後は消失。癒着か?)。当初の計画通り「血瘀」に加えて「気虚」も治すことにする。 処方2)芎帰調血飲第一加減(30.0g/47.0g)+補中益気湯(20.0g/27.0g)×14日 補中益気湯 |
第6診朝の元気が出てきた。 処方2) do.×14日分 |
第7診月経あり。高温期は8日間でそのうち36.7以上は3日間のみだった。黄体機能不全が基礎にあるものと考え、その原因は「冷え」と判断。補中益気湯を当帰四逆加呉茱萸生姜湯に変え更に牡蠣肉エキスを併用。 処方3)芎帰調血飲第一加減(30.0g/47.0g)+当帰四逆加呉茱萸生姜湯(20.0g/23.0g)×14日分 当帰四逆加呉茱萸生姜湯 処方4)牡蠣肉エキス |
第8診高温期に入ったが36.8前後で経過。体も今までになく温かい感じ。 処方3) do.×14日分 |
第9診妊娠確認。安胎目的に処方5)当帰芍薬散に変更。処方4)も妊娠中服用継続。 処方5)当帰芍薬散(22.0g/22.0g) 当帰芍薬散 |
考察
芎帰調血飲第一加減の主な使用目的は①出産直後の諸症状、②出産以後に起こった諸症状③下肢血瘀の三つがある。①は、悪露が出ない・止まらない、腹痛・頭痛、抑鬱・不眠・狂乱、足腰が立たない、母乳が出ない、だど。②は「二人目不妊」、頭痛・肩こり、月経の不調、リウマチなどの膠原病など。ちなみに②でいう「出産以後」は出産してから死ぬまでをいう。流産や中絶以後に妊娠しない場合は②に該当するものとして芎帰調血飲第一加減を基本に用いている。流産や中絶時に生じた血瘀をはじめに取り除かなければ何を与えても効果は上がらないように思う。これに「疲れ」などの顕著な場合は補中益気湯を、「冷え」の顕著な場合は当帰四逆加呉茱萸生姜湯を合わせて用いることが多い。牡蠣肉エキスは血液の活性化を目標に併用した。
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